短冊小説「ヒンスレバドンナモンダ」

「じいじ、元気にしてる」

孫からの久々の電話に源二は思わずにんまりと笑う。

だが、この末孫も来年は中学生になる。

孫たちがもっと幼かったころは、娘たちは積極的にわが家に孫を連れて来てくれたものだ。

だが、一番年かさの孫が中学校を卒業するころになると、頻度は瞬く間に落ちた。

わが子が受験戦争に巻き込まれ始めた証拠だ。

じいじ、バアバを気遣っている余裕がなくなって行ったのであろう。

最後に、電話に出てきた娘は、「新手のおれおれ詐欺みたいなのが増えてるみたいだから気を付けてね」という。

心の中で、そこまで老いぼれてはいないわいと反発する。

そんな折、数日が経って、証券会社を名乗る男から怪しげな電話がかかってきた。

「市のゆとり度調査の上位200件の方にだけお電話しております」という。

なんでも一部上場の株をいまだけ70%オフで譲っているのだという。

だが、源二は、「市のゆとり度調査、上位200件」と言われた瞬間、訝しがった。

どう見ても、自分がゆとりある富裕層にないことは明白だ。

下流老人を自認している。

そもそも蓄えが何千万も持っているから騙されて持ち逃げされる。

そういう老人の絶えないことが不思議なのである。

ない袖は振れない。

だが、そう思った瞬間、なぜか口から出まかせの言葉が飛び出した。

「そうですね。貯金はざっと6,7千万くらいですかね」などと。

その瞬間、向こうの男の声が色めき立ったのがわかった。

「担当者がじかに説明に行きたい」という。

そこで、すぐに警察に相談してみた。

そこからの警察の動きは速かった。

親戚筋の義理の弟ということで、初老の刑事が同席してくれることになった。

そうして、まんまとはまる役を演じ続けた。

そして、金をとりに来た男たちがその場で御用になった。

このニュースはあっという間に娘たちの知るところとなった。

「だまされる一歩手前だったんじゃない?」などと言う。

じいじはなかなか理解されない。

昔からいうだろ?

「貧すれば鈍す」って。

違う、違う。

貧しても、しっかり生きてさえいれば鈍することはない。

不便さに不便さの価値があるように、貧することにも貧する価値というものがある。

源二は、娘たちのLINEにこう書いた。

「ヒンスレバドンナモンダ」と。

娘たちからは、ヤレヤレというスタンプが返って来ただけであった。




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