Yくんのう●こネタ 第2弾「ポットントイレ」-2

夜遅くまで研究資料の作成などがあったが、K子さんのお蔭で、ぼくとYくんはいつになく真面目に議論に参加していた。K子さんの方も東京の大学生は新鮮だったのだろう、「いいわぁ。ごろうさんとYさんの議論は夜遅くまで聞いてても飽きへんわ」などと関西のイントネーションで言われると、寝ずに頑張ろうと思ったものである。

最終日、われら「拒否権チーム」は、宿の近くの日本でも有数と言われている石仏を見に行った。

苔むす山道を登って、ようやく目的地にたどり着いたが、凹んだ巨大な石壁に仏さんが何体も彫り込んであっただけだった。
若い頃にこんなモノを見たからと言って、感動するわけでもない。
霞にけむる頂上付近はすでに紅葉が始まっていることに感動しているK子さんの姿にこっちは感動(?)していた。

ところが、そうこうしているうちに霧雨のような細い雨が周囲を包み始めた。
みんな、雨の用意などしてこなかったから、石壁に身を寄せてしばし雨宿りをしていた。
幸い、ぼくはK子さんの隣だったものだから左肩をピッタリつけて、幸せ気分を満喫していた。
そこにYが無理やり割り込んできた。
そして、自分の着ていたヤッケをK子さんに着せてやった。
“チェッ!柄にもないことしやがって…”、ぼくは心のなかで呪いの言葉をつぶやいた。

それから、しばらくして、Yくんが妙にソワソワし始めた。
そして、こう言った。
「みんな、だんだんガスってきたから下にあった民宿のあたりまで急いで下りよう!」。
これに異を唱える者はいなかった。
全員が霧雨に濡れながら、坂道を走ってその民宿まで下りてきた。

われわれに気がついた民宿のおばさんが、手招きして軒下に入れてくれた。
渡された白いタオルで頭や肩を拭きながら入れてもらったお茶を両手で弄んでいたとき、Yくんのいないことに気がついた。

「あれっ!……Yは?…K子さん、Yを知らない?」
K子さんもかぶりを振るだけである。

すると、民宿のオジさんがやってきて、「あぁ、あの学生さんじゃろ。さっき、青い顔して便所借してくれというから案内してやった」という。
そして、アゴでしゃくった方の高台に別棟のトイレがあった。
しばらくして、そのオジさんがなぜか突然ゲラゲラ笑い出した。
「おう、おう、あの学生さん、ポットン便所の使い方を知らんな。便所バッタになっとる」

よく見ると、Yの頭がトイレの窓から見えたり、消えたりする。

おじさんが親切にもご丁寧に解説してくれた。
「ポットン便所は、直接落とすと、中のしぶきがチョポーーンと跳ね上がるだわな」
「特に汲み取ったすぐはいかん。都会の人には気の毒したのぅ、昨日、汲み取ったでな」

備えつきの新聞紙で大きいのを拾って落とすのが正しい使い方らしい。

Yくんの頭が見えるたびにこのオジさんが

「おりょりょ」「あやや」

と言って、笑った。


そのうち、みんなもつられてくすくす笑い出した。
K子さんも下を見ながらくすくす笑っていた。

「みなさん、知らんふりしてやらんとあの学生さん、可哀想だからね」とおばさんが言った。

帰り道、Yは何事もなかったようにすましていたが、宿に着く直前、ぼくに囁やくようにこう言った。
「あそこのトイレ、じつに使いづらいトイレだった」
「なんで?」
「いやっ、使ってないやつには説明しにくい」
「そうか、説明しにくいのか」、そう言いながら、ぼくはただただ、青年時代だけの優越感に浸っていた。

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