テーマ:自作小説

短冊小説「ヒンスレバドンナモンダ」

「じいじ、元気にしてる」 孫からの久々の電話に源二は思わずにんまりと笑う。 だが、この末孫も来年は中学生になる。 孫たちがもっと幼かったころは、娘たちは積極的にわが家に孫を連れて来てくれたものだ。 だが、一番年かさの孫が中学校を卒業するころになると、頻度は瞬く間に落ちた。 わが子が受験戦争に巻き込まれ始めた…
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短冊小説「ショートショート」

書き終えた弘樹は思わず微笑んだ。 これこそが、ショートショートの傑作だ。 無駄な文なんか一行もない。 無駄なことばだってどこにもない。 そこにはこう書かれていた。 「この年、ドラゴンズには、根尾と京田という二人の遊撃手がいた」 ショート、ショート。 アホ―――――ッ! …
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短冊小説「アイスで有名な」

尾登さんは、まだ70代前半だ。 なのに、もうすっかり腰は曲がってしまっている。 顔もくしゃくしゃしていて、90と言ってもおかしくない。 だけど、声は大きい。 頭の方は、どうなんだろう? よくわからない。 あやしいと言えば、怪しいが、まぁ普通と言えばふつうである。 この尾登さんが、出来れば今度の日…
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短冊小説「残す一大事業は…」

壇上で、その若い評論家はこう言い放った。 「いま、団塊のみなさんに残された一大事業、それは死ぬことです」。 数人の聴衆から笑い声が漏れたが、すぐ固い雰囲気に飲みこまれて行った。 若い評論家は、うろたえてこうつけ加えた。 「ここ、笑うところです。そうじゃないとここから先が話しずらいですから」と。 それからの話…
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短冊小説「終電前快速」

その日は「昇竜デー」だった。 ごろ―は、ドラゴンズの仲間たちとの観戦を終え、JRの電車に乗った。 終電前快速電車。 現役の頃は、これにずいぶん乗ったものだ。 呑んだ時も残業で遅くなった時も、この電車に乗ろうと急いだものだ。 もの凄く混むのだが。 リタイアして10年。 本当に久しぶりでこの電車に乗…
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短冊小説「うしろ姿」

「杉野繁三郎 告別式場」。 大学時代のゼミの学友も多く参加していた。 「杉野ゼミ」に名を連ねているというのは、法学部学生にとっては一種のステイタスでもあった。 だからだろう、「杉野ゼミ」出身者が多かったのは。 しかし、若く活動的であったあの頃からすでに、ほぼ50年という長い歳月が流れている。 みな、名乗らね…
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短冊小説「兵六餅」

周五郎は、シニアクラブの集まりから帰宅して、すぐわかった。 この家の散らかり方は、孫の想が来たんだなと。 帯状疱疹ができて、学校へ行けないから2日ほど預かってくれという連絡があったばかりだ。 だが、家の中はしんと静まり返っている。 リビングの机の上にお菓子の箱がぽつんと置いてあった。 「兵六餅」。 な…
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短冊小説「回光返照」

病室の枕もとの壁面に色紙が貼ってある。 「回光返照」。 雄二は点滴の管を気にしながらそれをのぞき込んだ。 「なんて書いてあるの?」 「『えこうへんしょう』って読むらしいよ」、と祥子は答えた。 「お父さんが書いたの?」 「ううん、慧照伯父さん」 40Kほどのところにある臨済宗慈照寺を継ぎ、法力が強…
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短冊小説「ネロ」

その精米所が火事になったのは、三郎が小学四年生の時だった。 紅蓮の炎が冬の夜空を赤々と染めた、その光景は今でも三郎の脳裡に焼きついている。 精米所は、女学校通りの橋の近くにあった。 女学校通り。 終戦後、しばらくは開校していた学校跡だったので、その頃は、校舎も体育館も残っていた。 三郎たちにとって、使われて…
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短冊小説「ドルフィン」

いつものように、4人が集まった。 豊島区の小さなお寺の本堂脇の空き地に、プレハブの二階建てが建っていた。 そこの二階がしんちゃんの私室になっていた。 酒飲んでくだを巻こうが、麻雀しようがそこまで近所迷惑にならないのがここの最大の利点であった。 青春時代にこういう場所は絶対に必要だ。 この日、最後にやってきた…
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短冊小説「FB」

「よりによって、こんな時に」、藤代竜彦は舌打ちをしながらスマホの画面をそのまま、ポケットにねじ込んだ。 「藤代さん、3番診察室までお入りください」 総合病院の待合室にそのアナウンスは急かすように、響いて聞こえた。 「藤代君、70過ぎるとまぁ、次から次にいろんな病気が出てくるぞぉ~~」 ひと回り先輩の宮下さ…
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短冊小説「不幸ガエル」

だれも信用しないから、言わないのだが、数年前、おいらは突然、カエルに話しかけられた。 「なに、こんなところで、ボンヤリ景色を見てるんだ…」 そりゃ、びっくりしたさ。 横を見ると緑のカエルがオレに話しかけてんだもの。 「そんなにしげしげ見なくたって、ここに生き物はカエルのオレ様しかいないだろうがよ…」 「なん…
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短冊小説「あの唄はもう唄わないのですか?」

創作朗読劇「伊勢正三のあの唄はもう唄わないのですか?」 2012年 多治見ことばの劇場で公演 (A) 今朝新聞の片隅に ポツンと小さく出ていました あなたのリサイタルの記事です もう一年経ったのですね (B) 去年もひとりで誰にも知れずに 一番うしろで見てました あの唄もう一度聞きたくて 私のために作ってくれた…
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短冊小説「むしか君」

「おーーい、むしか~~~」 ピンポン台の前に立っていた、背の高い奴が振り向いた。 暑かったのだろう、作業服を脱いでいた。 バスケット選手が着ていそうな、派手な色のランニング・シャツから鍛えられた浅黒い腕が出ている。 そして、屈託のない笑顔をこっちに向けた。 「こいつ、むしか」 幹夫は健次郎の方を向いて…
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自作小説「漆黒」

「欣ちゃん、何年ぶりだろう」 従兄弟のよっちゃんが、ビールを片手に語り掛けてきた。 この日、隈乃の比良本家には親戚一同が集まっていた。 そして、本堂では、比良家の象徴ともいえる「丑蔵」「はつね」の50回忌が盛大に執り行われていた。 よっちゃんは、三井か三菱の関連企業で役員までやっていた従兄弟だ。 まぁ、従兄…
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短冊小説「細小波(いさらなみ)」

春なのに、その日は凍てついていた。 佐枝子は思った。 「こうなる宿命だったんだわ」。 冷え切った電車の車窓に額を押し当てる佐枝子の横顔はひどく小さく映り込んでいた。 かつて、佐枝子は、由香里の夫恒久を奪った。 結果的に言うとそういうことにしかならない。 そして、強引に自分が身ごもった「沙誉莉」の父親に…
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短冊小説「クリスマス・イブ」

「5年ぶりに日本へ帰ります。帰りましたら、お電話いたします」 雪菜からのメッセージを受けた時、新次郎はいささか戸惑いを覚えた。 確かに、あの時、仲たがいをしたわけではない。 お互いが、それ以上踏み出せなかっただけだ。 不倫といえるほど、明確な困難が控えている状況でもなかった。 だが、お互いに結婚を意識した相…
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短冊小説「最後の授業」

弔辞 あれは僕らが高校卒業まで2ヶ月ほど前のことでしたね。 僕ら3年D組の生徒にとって、そのニュースはあまりにも衝撃的でした。 いきなり最後の授業がやってくるなんて思いもしませんでしたから。 僕らは辻村先生の真意を知りたくて、うずうずしながら先生の来られるのを待ちました。 珍しく先生はチャイムが鳴り終わって、し…
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短冊小説「最後の上京」

「ね、あなた、これじゃない? お父様の単行本って」 吾朗は、さくらから受け取って大きく頷いた。 「どこにあった?」 「ほのかの中高時代の段ボールを整理していたら、でてきたの…」 水上勉「五番町夕霧楼」。 ずっと探していたのに、決して見つからなかった単行本である。 思いがけない時に出てくる。 それ…
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自作小説「魔女ばあ」〈2〉

入ってきたのは、初老の男性だった。 入口で、「魔女ばあ」を見つけると、家出した娘を見つけたような複雑な表情を浮かべた。 たかしが驚いたのは、ちょうどその時、入り口付近でお皿などを下げていた「めぐ」がその男性を見て、固まっていたことだった。 男性も唸るような声で、「どうしてここに、めぐちゃんがいるの?」と呟いた。…
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自作小説「魔女ばあ」〈1〉

たかしが高校の社会経験学習、インターンシップで行かされたバイト先は、5丁目の「エジデ・パンカフェ」だった。 どうして喫茶店のようなところに、男子の自分が選ばれたのかは分からなかったが、担当の河島先生の気まぐれで決まったことはなんとなく察しがついた。 河島先生の姪の「めぐ」のボディー・ガードに最適とでも思ったのだろう。 …
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短冊小説「新しい朝」

「いや、いや、遅れてしまって、申し訳ない」 そう言いながら、分別ごみのゴミ捨て場に駆け込んできたのは3丁目の北村さんだ。 朝6時45分、B、Cブロックの資源ごみ当番が全員そろった。 「北村さんも資源ごみ当番、初めてでしたね?」 班長の浅野さんが、全員の顔をじろりとにらむ。 「ここで何度かやっているのは、牧園…
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短冊小説『最後の行』

このあたりで、ゲンさんを知らないと、ドラゴンズファンじゃねぇよ、もぐりだよ。 いきなりそう言って、怒ってきたヨネさんも神妙な顔をしている。 ヨネさんの握りしめた数珠がギニュッと妙な音を出した。 ゲンさんは、昨日の晩、75歳の生涯を閉じた。 「肺が真っ白だったの…」、奥さんはそう言っていた。 かつて、岐阜竜心…
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短冊小説「赤面」

ぼくの携帯が鳴ったのは、8月中旬の大型台風が近づいているある昼下がりだった。 「9月4日と5日、新潟にご一緒しませんか?」 「え、なんでです?」 「越後妻有トリエンナーレ2015を見学に行こうかと話し合ってるんです」 電話をくれたのは、戯曲講座で一緒の荘川多摩子さんであった。 多摩子さんは、四十路半ばくらい…
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短冊小説「隣家の窓」

ぼくが大学生になって、住んでいた雑司ヶ谷のアパート。 隣のアパートとは、身を乗り出して、手を伸ばせば触れるほど近かった。 ある時、そっち側に洗濯物を干していたら、だれも住んでいなかったその窓が、がらりと開いた。 「おめぇ、せいがくか?」 目つきの悪いチンピラ風のやくざさんがそう言った。 「せいがく?」 …
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短冊小説「下足番のヒデさん」

神奈川県の古くからある湯治場にその高級大衆食堂はあった。 いや、まさに高級大衆食堂だった。 かつては娼館だったという木造三階建ての立派な建物は、本来湯治客のための旅館でもあったが、通りに面した細長い平屋の方は、別に独立して、食堂として営業していた。 いわゆる割烹旅館の食堂だから高級なはずなのだが、価格はそれほど高いわけ…
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短冊小説「カッカさんとマッチ売りの雪姉さん」

「カッカさん」とは、東京、新大久保の雑居ビルで初めて会った。 大学二年の夏、小田急ビルのビアガーデンでエレベーターボーイのアルバイトを始めた時だった。 そのビルの小さな事務所が派遣元だったのだ。 ドアマンのユニフォームがあるというので取りに行ったのだが、これがまるで70年代のグループサウンドでも着なかっただろうという衣…
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短冊小説「開封されていない封書」

木彫作家の修二は展覧会場で突然声をかけられた。 「お久しぶりです。鈴村分家の方の吟一です。覚えていらっしゃいますか?」 自分とほぼ同年齢の老人だった。 とっさには思いつかなかったが、目を見ているうちに特徴あるたれ目で思い出した。 「あー、紳四郎叔父さんのところの…吟ちゃん。いや、いや、何年ぶりでしょう」 そ…
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短冊小説「容子ちゃんの砂糖入れ」

(聴衆に静かに語りかける) いま、ぼくが手に持っている、この砂糖入れ。 ぼくは、これを「容子ちゃんの砂糖入れ」って呼んでいます。 実は、この砂糖入れとの出会いは、ぼくの20代の時にさかのぼります。 ですから、もう40年近く前のお話ですね。 ぼくは、その頃、デザイン学校に通っていました。 その友人たち野郎7…
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短冊小説「鬼の面」

昨年。 青木健三が会社から帰ってみると、テーブルの上にえらく立派な鬼の面が置いてあった。 見るからに高そうなお面が無造作にテーブルの上にポツンと置いてある。 健三はお面の「赤いより紐」の先の「房」を見て、ますます怪訝そうに首をかしげた。 一月末だから節分用に置いてあるのかもと思ったが、それにしてもいかにも立派すぎ…
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