ありときりぎりす

本日は、終日、今度行く介護施設の慰問用の「シニアのための洞話(どうわ)」を書いていた。

浦島太郎、笠地蔵、幸せの王子など都合5本を書き上げた。

紙芝居にして、上演するつもりだ。

ただのあたりまえな童話では面白くないので。

そのうちのひとつをご紹介しておきますね。

みなさんの感想を教えてください。



ありときりぎりす


ぼくね、「ありときりぎりす」のありです。

あのお話も、かなり事実と違います。
童話の中では、キリギリスさんは、働くのがいやで、わたしはよく働く働きもので、となっていますよね。
まぁ、子どもたちに働く大切さを教えるのであれば、そう言った方がわかりやすいのでしょうが、もうこの世の酸いも辛いもご存じのみなさんには、ホントのこと言ってもいいでしょう。

ほんとうはね、あれは片思いの話なんです。
結論を先に言いますとね、キリギリスさんは働くのがいやで、音楽ばかりやっていたのじゃありません。
だって、ああいうことがあるまでは、彼もまじめにパブで働いていましたから。

実はね、あの頃、「アリス」というそれは美しいキリギリスがいましてね。
あのキリギリスさんも彼女に一目ぼれしてしまったんです。
と言っても、あの頃の若いキリギリスさんはほとんどみんなそうだったはずです。
だから、彼も大勢組の一人で、名前も何て呼ばれていたか、今では誰も覚えていません。
まぁ、とにかく、線の細い男の子でした。
で、ある時、月をめでる夜会が開かれました。
その時、彼は弾き語りのミュージシャンで出演していたんです。
澄んだ声で、バイオリンを弾きながら歌いました。
月夜に調和して、それはじょうずでした。
夜会に出ていた参加者のみんなが感動し、大絶賛しました。

で、アリスさんも、帰りしな、今度わたしの家の前でも歌ってくださいね、とおっしゃったんです。
もちろん、軽い気持ちの社交辞令だったのでしょうけどね。
でも、若いキリギリスさんは、このことばを真に受けてしまった。
まぁ、若い純情な男には、よくある話じゃないですか。
それで、毎日、毎晩、彼女の家の前に歌を歌いに行ったんです。
でも、彼女は姿さえ見せてくれない。
ミュージシャンの彼は、仕事も辞め、やせ細った体に鞭打ちながら彼女の家の前に通い詰めた、……そういうことだったんです。

正直、アリスさんも迷惑したと思いますよ。
軽い気持ちで言ったことを真に受けて、毎日、家の前に来られたらそりゃあ、かなり気持ち悪かったでしょう。
いまだったら、「ストーカー相談」とかで警察に言って、追い払うこともできたんでしょうけどね。

それと、アリスさんは、ミュージシャンの彼とは合わない部分があったのです。
ほんとうのこと言いますとね、アリスさんは、ふだん話す声はかわいい澄んだ声なんですけど、歌うとそれはひどい声で。

高い音になると声が裏返って、逆に低音になってしまうんです。
だから、決して、歌のじょうずな男性とは恋をするつもりはなかったはずです。
いっしょに歌いましょうなんて言われたら困りますからね。

だけど、ミュージシャンの彼はそんなこと知るわけがありません。
ひたすら、愛を歌い続けたというわけです。
気の毒な話でしょう?

あ、それと、題名ですが、もともとは、「アリスときりぎりす」だったんです。
それがいつのまにか、「ありときりぎりす」になっていました。

じゃあ、お前は何のアリだっ……、ってですか?

えぇ、そのミュージシャンの死骸を片付けたに行ったアリの一人です。
何ですか、その目は。
登場人物の一人であることに違いはありませんよ。
なのに、一生懸命働いて、まさか、そんな目で見られることはないと思いますが……。


おわり













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