自作小説「魔女ばあ」〈1〉
たかしが高校の社会経験学習、インターンシップで行かされたバイト先は、5丁目の「エジデ・パンカフェ」だった。
どうして喫茶店のようなところに、男子の自分が選ばれたのかは分からなかったが、担当の河島先生の気まぐれで決まったことはなんとなく察しがついた。
河島先生の姪の「めぐ」のボディー・ガードに最適とでも思ったのだろう。
「めぐ」と「さりー」、二人とも可愛いので他の男子からはずいぶん羨ましがられたが、たかしは気が重かった。
「めぐ」と「さりー」は、実は仲よさそうに見えて、犬猿の仲である。
二人は、成績でもクラスで1,2位を競っている。
どっちと仲良くしても、もう一方から痛いしっぺ返しを食らうことは火を見るより明らかだった。
女子はめんどくさい。
で、なるべく二人とは距離を置いて、多分だるいであろう時間をつぶそうと思っていた。
ところが、喫茶レストランである「エジデ・パンカフェ」は意外に忙しかった。
こまかい、やることが、波のように間断なく襲ってくる。
しかも、力仕事は、たかし一人が引き受けさせられた。
たかしはちょっと当ての外れた目まぐるしい職場に、むしろ驚いていた。
そんな中で、入口の角に朝一番からずっと座りこんでいるおばあさんがいた。
黒いつばひろの帽子を目深にかぶって、黒と赤のチェックのストールを肩にかけて、ジッとしている。
その姿は、まるで「魔女」だ。
たかしの脳裏に、自然に「魔女ばあ」という言葉が浮かんだ。
2日目のお昼御飯の時、さりーがそのことを口にした。
「あぁ、魔女ばあのこと?」
つい口走ってしまって、たかしは慌てて口をふさいだが遅かった。
「魔女ばあ…? え、ホントにそう呼ぶの、あのおばあさん」
な、わけないだろう…。
でも、さりーはやけにこの話に喰いついてきた。
「めぐ」の顔を見ると、やっぱり苦虫をかみしめたような顔をして、こちらの話を聞いてないふりをした。
「え、このネーミングって、脇坂君がつけたの? ジブリに出てきそうなおばあさんだものね。 うん、うん、いいセンスしてるよ、脇坂君」
さりーは、やけに上機嫌でこの話を引っ張った。
午前中、ランチの用意をした時、店長に手際の良さを褒められたからご機嫌なんだろう。
「魔女ばあ」は、朝のモーニングを食べた後、昼のパンランチを食べ、4時になると帰っていく。
その間、たまに雑誌を広げたりするが、ほとんどはうつらうつらしているのだった。
他のお客さんが入店してきたりすると、目を覚まして、じろりと見るが、声をかけあう知人がやって来ることはなかった。
たかしは思う。
少なくとも、あの人がこの店に来るまでは「魔女ばあ」の座っている一角は、平穏に時間は過ぎていたと。
それは、バイト3日目の11時ちょっとすぎだった。
[続く]
どうして喫茶店のようなところに、男子の自分が選ばれたのかは分からなかったが、担当の河島先生の気まぐれで決まったことはなんとなく察しがついた。
河島先生の姪の「めぐ」のボディー・ガードに最適とでも思ったのだろう。
「めぐ」と「さりー」、二人とも可愛いので他の男子からはずいぶん羨ましがられたが、たかしは気が重かった。
「めぐ」と「さりー」は、実は仲よさそうに見えて、犬猿の仲である。
二人は、成績でもクラスで1,2位を競っている。
どっちと仲良くしても、もう一方から痛いしっぺ返しを食らうことは火を見るより明らかだった。
女子はめんどくさい。
で、なるべく二人とは距離を置いて、多分だるいであろう時間をつぶそうと思っていた。
ところが、喫茶レストランである「エジデ・パンカフェ」は意外に忙しかった。
こまかい、やることが、波のように間断なく襲ってくる。
しかも、力仕事は、たかし一人が引き受けさせられた。
たかしはちょっと当ての外れた目まぐるしい職場に、むしろ驚いていた。
そんな中で、入口の角に朝一番からずっと座りこんでいるおばあさんがいた。
黒いつばひろの帽子を目深にかぶって、黒と赤のチェックのストールを肩にかけて、ジッとしている。
その姿は、まるで「魔女」だ。
たかしの脳裏に、自然に「魔女ばあ」という言葉が浮かんだ。
2日目のお昼御飯の時、さりーがそのことを口にした。
「あぁ、魔女ばあのこと?」
つい口走ってしまって、たかしは慌てて口をふさいだが遅かった。
「魔女ばあ…? え、ホントにそう呼ぶの、あのおばあさん」
な、わけないだろう…。
でも、さりーはやけにこの話に喰いついてきた。
「めぐ」の顔を見ると、やっぱり苦虫をかみしめたような顔をして、こちらの話を聞いてないふりをした。
「え、このネーミングって、脇坂君がつけたの? ジブリに出てきそうなおばあさんだものね。 うん、うん、いいセンスしてるよ、脇坂君」
さりーは、やけに上機嫌でこの話を引っ張った。
午前中、ランチの用意をした時、店長に手際の良さを褒められたからご機嫌なんだろう。
「魔女ばあ」は、朝のモーニングを食べた後、昼のパンランチを食べ、4時になると帰っていく。
その間、たまに雑誌を広げたりするが、ほとんどはうつらうつらしているのだった。
他のお客さんが入店してきたりすると、目を覚まして、じろりと見るが、声をかけあう知人がやって来ることはなかった。
たかしは思う。
少なくとも、あの人がこの店に来るまでは「魔女ばあ」の座っている一角は、平穏に時間は過ぎていたと。
それは、バイト3日目の11時ちょっとすぎだった。
[続く]

この記事へのコメント
今になって思うけど 高校時代にもっとバイトしておけば良かったかな?と…。
で…高校の「職場体験」は「お米屋さん」だった…たいして仕事してないのに 帰るときに たくさん「おみやげ物」を戴いてかえりましたとさ!
やっぱり、若いんだねぇ。
高校の「職場体験」を経験してるんだものね。
おいらのころは、そんなのなかった。
田舎だったから、バイト先もなかったし、校則でやっちゃいけなかったし。
農家には手伝いに行かされたけど、無償奉仕が当たり前だったからね。
昭和30年~40年にかけて、まだまだ日本全体が貧しかったですものね。
そう、そう、ぼくが見た高校生たちも
>たいして仕事してないのに 帰るときに たくさん「おみやげ物」を戴いてかえりました
みたいな待遇でしたよ。