短冊小説「容子ちゃんの砂糖入れ」

(聴衆に静かに語りかける)
いま、ぼくが手に持っている、この砂糖入れ。

ぼくは、これを「容子ちゃんの砂糖入れ」って呼んでいます。

実は、この砂糖入れとの出会いは、ぼくの20代の時にさかのぼります。

ですから、もう40年近く前のお話ですね。

ぼくは、その頃、デザイン学校に通っていました。

その友人たち野郎7人で、「映画クラブ」を立ち上げました。

まぁ、活動のほとんどは、映画を見て感想を語り合うというものでした。

でも、すぐ、自分たちで撮ろうやという話になり、やくざ映画を撮り始めました。

「仁義なき戦い」があまりにも鮮烈だった頃ですからねぇ。

主演は、小林君。

小林旭なみの背が高く、スッキリした顔立ちのイケメンでした。

後は、そろいも揃って、不細工な男子ばかりでしたから、チンピラ役には困りませんでした。

そのうち、やっぱり、ヒロインがいないとつまらないということになり、可愛い女の子を探すことになりました。

ところが、帯に短し、たすきに長しでなかなかぴったりの娘がいません。

そこに小林君が連れてきたのが、容子ちゃんでした。

アイドル並みのキュートな容姿に、みんな色めきたったのですが、誰ともなしに「容子ちゃんはきっと小林が好きなのだろうから…」と、全員、自分だけ抜けがけして容子ちゃんを誘ったりしない、という紳士協定を結びました。

それでも、抜けがけしようとして、殴られた奴もいたのですが…。

そんな風でしたから、容子ちゃんと映画を見に行くのも当番制になってました。

ある時、京橋のテアトル東京で、評判になっていた洋画を見に行くことになりました。

ところが、もうひとりの男の子が来れなくなってしまったのです。

そこで、期せずして、ぼくは容子ちゃんと二人でデート出来たのです。

ぼくたちは、歩いて日本橋の高島屋まで行きました。

そこでやっていた「器(UTSUWA)展」でこのコーヒーセットと出会ったのでした。

ぼくは、母親の「いい暮しって、いい器と暮らすことかもね」と言っていた言葉を思い出して、そう言いました。

そしたら、容子ちゃんが「わたしもいい器と暮らしたいわ」って言ったんです。

だから、ぼくは「じゃぁ、容子ちゃんが結婚する時、この器を贈るね」って、約束しました。

でも、結婚したのはぼくの方が先でした。

その結婚のお祝いにもらったのが、このコーヒーセットだったのです。

式後、やけにずっしり重かったのを憶えています。


(いつの間にか手にしていた砂糖入れはなくなり、持つ手の形だけになっている)

それから40年。

容子ちゃんからもらったコーヒーセットも、一枚二枚、一個二個、と割れてなくなっていきました。

最後に残ったのが、陶器のスプーンとこの砂糖入れだったのですが、スプーンが割れて、唯一砂糖入れだけが残ったんです。

そして、別の砂糖入れがわが家にやって来てからは、食器棚の奥にしまわれて、静かな余生を送っていました。

それが、2015年2月1日、こなっちゃんのワークショップ「器とことば」という寸劇に、ごろーさんの思い出の品として出演しました。

でも、それが最後のご奉公だったのでしょう…。

一週間後、別のお皿を取ろうとして、食器棚から落ちて、割れてしまったのです。

カタチあるものは、いずれは壊れ、土に還る。

今まで器が占めていた空間は、なんの境界もないただの空間になりました。

そう思った瞬間、ぼくは猛烈に知りたくなったのです。

「わたしもいい器と暮らしたいわ」、あれはどういう意味だったのですか?

ひょっとして、愛の告白だったんじゃないかって…。

今ごろ、そんなことを思っています。

………、ふっ、………、ですよね、聞いても仕方ないか。

容子ちゃんも62歳になっているはずです。

いま、どこで、どう暮らしているのか…。

素敵な器に囲まれて暮らしていると信じています。

(トップからの明かりが静かに消えていく)









※吉田小夏のWS「町の劇」での語りをベースに書いたものです。








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この記事へのコメント

2015年02月15日 15:07
ごろーさん、これを舞台でモノローグとして語るのですか?
難しそうですね。
まだこもよ
2015年02月17日 08:13
なんか・・・本当に兄弟なのでは?と 思うことが・・・・ 今使っている「カップ」・・・実は20代のころ 東京に出てアパートを借りた時に 何も持ってない私に「これ使いなよ!」と 大家さんからもらったヤツ!! 選んだわけではないけど デザインが気に入って(まったく 無駄が無い「実用向き」しかも 厚みがあるために強度がある? そのせいか長期使用しているのに割れない)ずっと使っているのだ!
それよりもすごいのは 私が小学校6年のころ「キャンプ」に行く時に 使うからと買った プラスチック製のカップ・・・・その後「歯磨き用」に使い続けて・・・いますが・・・まだ「現役」!? 「これ何年使うんだ?」って感じですよ~。 まぁ全般的に長期に使用しているものが多いかな? (車は16年目だし?)

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